いふ)[#ここで割り注終わり]
味村のつらゝの小舟葦邊にか漕ぎかくりけむ見れども見えず

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四日、蕨氏に導れて杉山を攀のぼるとて
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睦岡の埴谷の山はいばらつら足深《あふか》にわけて越ゆる杉山

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とよみけるがいたくあやまりたり、このわたりの杉山ことごとくしたぐさ刈りそけて見るに涼しげなり
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睦岡の五百杉山はしたぐさの利鎌にふりて見るにさやけし

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五日、けふも杉山見に行く
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赤阪は鎌わたらず、小芒のおどろもゆらに、蛇ぞさわたる、蛇わたる山の赤阪、行きがてぬかも

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六日、八街原をかへりくるに波の音きこえければ
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から籾をすり臼にひき、とゞろにきこゆるものは、とほ/″\し矢刺の浦の、波にしあるべし

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千葉の野を過ぐ
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千葉の野を越えてしくれば蜀黍の高穗の上に海あらはれぬ

もろこしの穗の上に見ゆる千葉の海こぎ出し船はあさりすらしも

百枝垂る千葉の海に網おろし鰺かも捕らし船さはにうく

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九月十九日、正岡先生の訃いたる、この日栗ひらひなどしてありければ
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年のはに栗はひりひてさゝげむと思ひし心すべもすべなさ

さゝぐべき栗のこゝだも掻きあつめ吾はせしかど人ぞいまさぬ

なにせむに今はひりはむ秋風に枝のみか栗ひたに落つれど

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二十日、根岸庵にいたる
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うつそみにありける時にとりきけむ菅の小蓑は久しくありけり

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二十三日、おくつきに詣でゝ
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かくの如樒の枝は手向くべくなりにし君は悲しきろかも

笥にもりてたむくる水はなき人のうまらにきこす水にかもあらむ

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廿五日、初七日にあたりふたゝびおくつきにまうでぬ、寺のうら手より蜀黍のしげきがなかをかへるとて
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吾心はたも悲しもともずりの黍の秋風やむ時なしに

秋風のいゆりなびかす蜀黍の止まず悲しも思ひしもへば

もろこしの穗ぬれ吹き越す秋風の淋しき野邊にまたかへり見む

秋風のわたる黍野を衣手のかへ
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