くれなゐに染みしぬるでの鹽の實の鹽ふけり見ゆ霜のふれゝば[#ここから割り注](ぬるでの實は味辛し故に方言鹽の實といふ)[#ここで割り注終わり]

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三十日、雨ふる
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秋雨に濡らさく惜しみ柿の木に來居て鳴くかも小笠かし鳥

     うみ苧集(六)

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八月四日、雨、下づまにやどる
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草枕旅に行かむと思へるに雨はもいつか止まむ吾ため

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五日、あさの程くもり、五十日に及びて雨はれず
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苧だまきを栗のたれはな刺《いが》むすび日はへぬれども止まぬ雨かも

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午后にいたりて日を見る
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おぼゝしく降りける雨は青※[#「くさかんむり/相」、第4水準2−86−43]《うまくさ》の立秀《たちほ》の上にはれにけるかも

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八日、立秋
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久方の雨やまなくに秋立つとみそ萩の花さきにけるかも

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十二日、雨、この日下づまに在り、友なるもの、いたづける枕もとにさま/″\の話してあるほどに房州の那古にありける弟おもひもかけず來り合せたるにくさ/″\のことをききて
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烏賊釣に夜船漕ぐちふ安房の海はいまだ見ねども目にしみえくも

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十四日、きぬ川のほとりを行く
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※[#「木+綏のつくり」、第3水準1−85−68]の木は芽立つやがてに折らゆれどしげりはしげし花もふさ/\

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廿五日、ものへ行く、棚にたれたる糸瓜のふとしきをみて
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秋風は吹きもわたれかゆら/\に糸瓜の袋たれそめにけり

青袋へちまたれたりしかすがにそのあを袋つぎ目しらずも

夏引の手引の糸をくりたゝね袋にこめてたれし糸瓜か

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廿八日、芒の穗みえそむ
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秋風はいまか吹くらし小林に刈らでの芒穗にいでそめつ

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廿九日、筑波のふもとへ行く、落栗のいや珍らしきをよろこびてよめる
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楯名づく青垣よろふ、筑波嶺の裾曲の田居は、甘稻の十握にみのる、八十村の中の吉村は、投左の
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