ぎろひの夕さりくれば。鹽つまる和田つ宮居の。玉かざす少女が伴は。足引のおほやまつみの。山彦に合ひし合はまく。青薦の麥野をよぎて。榛の木の小枝が垂穗を。あさみどり柳が糸を。春風のさゆらさゆらに。裾引にいゆりわたれば。こち/″\の谷付く水の。川しりの八十つ船女が。うはなりのねたみ思ひて。をとめらにい及きあはむと。曳綱の曳かくを遲み。さす棹のさゝくを遲み。尾羽張に白帆は揚げて。日もおちず夕さりごとに。こりせずとひた追ひすもよ。い及きあはなくに。
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いま/\しさのたへがたきことありて
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丈夫の腋挾み持つ。桑の弓梓の弓。弓こそはさはにあれども。吾持つや手握細。細小竹のへろ/\矢。天とぶ雁にさやらず。槻が枝の鷦鷯とらむと。鷦鷯はや木ぬれはうつす。いたづらに吾とる弓の。へろ/\矢あはれ。
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下つまなる狹沼のほとりは吾いとけなき折のすみどなりければ見るになつかしき思ひぞすなる、ことしの春舟を泛べてそゞろに昔のことなどおもひいでければよめる
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わらはべに吾ありしかば舟競ひかづきせりける狹沼ぞこれは
これはもや水たまりの沼種おろす八十水田村へ水くまりの沼
蘆角の萌ゆる狹沼の埴岸に舳とき放ちて吾ひとり漕ぐ
岸のべの穗立柳は茂れどもありける家を見ぬがともしさ
古の二本柳妹に別れ一本立てり水付く柳
二本ありける柳妻なしにたゞ一本にあるがうれたさ
水付くや一本柳人ならば言問はましを一本柳
若草の妻覓ぎかねてひとりある柳を見れば昔思ほゆ
妹柳いまもさねあらば舟寄せて見て行かまくの朽ちにけるかも
狹沼邊の一本柳木根高に立ちさかゆともひともと柳
白波の手搖り振らばひひまもなき一本柳妻なしにあはれ
茄子
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かねてより土かへおきたる十坪ばかりのところへ瓜茄子などをつくりて
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瓜つくり茄子つくりすと。瓜の葉は蟲はむ故。竈なる灰とりかけ。茄子の葉は日にしぼむ故。楢が枝を折りてかざせば。くゝ立ちに茄子はさかえ。下ばひに瓜はひろごる。ひろごるや藁床の上に。枕なす瓜もよけども。いとはやもなれる茄子の。しりぶとにてれるを見るが。めづらしきかも。
鳥居
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浪逆の浦より息栖を過ぎてよめる歌并短歌
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