つあん、ありゃどうしたもんだべな」
「埋めてやってくろえ」
 太十はやっとそれだけいった。
「それもそうだがな、片身に皮だけはとって置いたらどうしたもんだ」
「どうでも仕てくろえ」
 蚊帳の中は依然として動かなかった。二人は用意して来た出刃で毛皮を剥きはじめた。出刃が喉から腹の中央を過ぎて走った。ぐったりとなった憐れな赤犬は熟睡した小児が母の手に衣物を脱がされるように四つの足からそうして背部へと皮がむかれた。致命の打撲傷を受けた頸のあたりはもう黒く血が凝って居た。裸にされた犬は白い歯を食いしばって目がぎろぎろとして居た。毛皮は尾からぐるぐると巻いて荒繩で括られた。そうして番小屋の日南に置かれた。太十は起きた。毛皮は耳がつんと立って丁度小さな犬が蹲って居るように見える。太十はそれが酷く不憫に見えた。彼は愁然として毛皮を手に提げて見た。
「おっつあん可哀想になったか」
と二人はいった。
「それじゃあとはおらが始末すっからな」
 棒をそこへ投げ棄てて二人は去った。血は麦藁の上にたれて居た。三次の手には荒繩で括った犬の死骸があった。太十はあとでぽさぽさとして居た。彼は毛皮を披いて見て居た。彼は
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