びついた。更に又瞽女の一人にも飛びついた。瞽女はきゃっと驚いた。お石は自分の犬がこんなに威勢よく大きくなったのを知って悦んだ。お石は赤を抱こうとして其手を長い舌でぺろぺろと嘗められた。威勢のいい赤は其から幾年間を太十の手に愛育された。太十とお石との情交は移らなかった。お石は顔に小さい皺が見えて来てもう遠から白粉は塗られなかった。盲目の衰え易い盛りの時期は過ぎ去って居るのである。其でも太十の情は依然として深かった。

   四

 彼がお石を知ってから十九年目、太十が六十の秋である。彼はお石を待ち焦れて居た。其秋のマチにも瞽女は隊を組んで幾らも来た。其頃になってからは瞽女の風俗も余程変って来て居た。幾らか綺麗な若いものは三味線よりも月琴を持って流行唄をうたって歩いた。そうして目明が多くなった。お石は来なかった。それっきり来なくなったのである。太十は落胆した。迷惑したのは家族のものであった。太十は独でぶつぶついって当り散した。村の者の目にも悄然たる彼の姿は映った。悪戯好のものは太十の意を迎えるようにして共に悲んだ容子を見てやった。太十は泣き相になる。それでもお石の噂をされることがせめてもの
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