4−76、118下−1]《ケンボナシ》の実を拾って来て其塞った鼻の孔へ押し込んでは僅かに呼吸の途をつけてやった。それは霜が木の葉を蹴落す冬のことであった。枳※[#「木+貝」、第4水準2−14−76、118下−3]の木は竹藪の中に在った。黄ばんだ葉が蒼い冴えた空から力なさ相に竹の梢をたよってはらはらと散る。竹はうるさげにさらさら身をゆする。落葉は止むなく竹の葉を滑ってこぼれて行く。澁い枳※[#「木+貝」、第4水準2−14−76、118下−6]の実は霜の降る度に甘くなって、軈て四十雀のような果敢ない足に踏まれても落ちるようになる。幼いものは竹藪へつけこんでは落ち葉に交って居る不格好な実を拾っては噛むのである。太十も疱瘡に罹るまでは毎日懐へ入れた枳※[#「木+貝」、第4水準2−14−76、118下−12]の実を噛んで居た。其頃はすべての病が殆ど皆自然療法であった。枳※[#「木+貝」、第4水準2−14−76、118下−14]の実で閉塞した鼻孔を穿ったということは其当時では思いつきの軽便な方法であった。果物のうちで不恰好なものといったら凡そ其骨のような枳※[#「木+貝」、第4水準2−14−76、
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