う太十は何等の苦痛もなく死んで居た筈である。たった一人野らに居た一剋者の太十はこうして僅かの間に彼の精神力は消耗した。更に大自然の威力は気象の激変を駆って眇たる彼の恐怖心に強烈な圧迫を加えた。同時に其単純な生涯から葬り去った。犬の毛皮を貼った板は俯向に倒れて居た。そうして板の裏が僅かに焦げて居た。
[#地より2字上がり](1910年2月「ホトトギス」)



底本:「日本プロレタリア文学大系(序)」三一書房
   1955(昭和30)年3月31日初版発行
   1961(昭和36)年6月20日第2刷
入力:Nana ohbe
校正:林 幸雄
2001年11月30日公開
青空文庫ファイル:
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