ふんだくる、取られた奴がやつきになつて奪ひ返す、互にかく爭ひ合つてやつと各餌にありついたと思ふとそこがまた可笑しい、鶩は凡てが丸呑みであるがまだ十分に生長しない彼等の喉では大きな栗毛虫は容易に通らない、曲つても通らない、くねつても通らない、あせりにあせつた揚句やうやく胃袋に落付いたといふ鹽梅にずうつと首を延長した儘しばらくは立つて居る、その姿勢のぶざまなことは夥しい、一つ呑み込んでは水鉢の側へ行つて嘴をくしや/\やつてはまた元のやうに活動する、足下に轉がつて居る毛虫には目も呉れないで他の喙へたのを奪ひ取らうとする、水を飮んでは騷ぎ廻り飮んでは騷ぎ廻るので地面はだん/\濕つてくる、不格恰な鶩の體はともすれば辷つて倒れかゝる、この騷ぎは苟も餌のある内は決して止まぬのである、十羽の鶩は不時の珍味のためにやゝ安じたといふ鹽梅で今は悉くありもせぬ羽をのばして羽叩いて居る、
兎角する程に正午に近くなつた、野らへ出たものも戻つて來た、雨はぽつ/\降つて來た、
井戸の方では頻りにみんなが笑つて居るのでなにごとかと思つたら妹が鶩を内へ入れるのだと首の所を持つて十羽一遍に引き揚げたのを可笑しいといふのであつた、
しばらくして雨はざあ/\と降つて來た、今日は舊暦では五月の二十七日明日は虎が雨といふのであるさうだ、[#地から1字上げ](明治三十六年十月十三日發行、馬醉木 第五號所載)
底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
1977(昭和52)年1月31日発行
入力:林 幸雄
校正:伊藤時也
2000年5月10日作成
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