本がカリンの木に邪魔をされて見える、築山からこの植込へかけて心字形の池があるが水もない、
 しかしながら築山や心字形の池が水のないのはおろか松葉がしき込んであつておまけに杉葉などが交つて居るものあるなどに至つてはもはや説明をする勇氣もない、
 只さつき梅の間から見た樅の木が十五六本大小塩梅[#「塩梅」に「ママ」の注記]して築山の背に立つてるのが稍々物になりさふである、樅の木の中には小さなドータンが一本交つてる、
 アヽコンナ陳腐極まる庭であつても、この松葉が拂はれて箒目の行き屆いた朝芝の青々としたのを見れば全く生命のないものでもない、しかしそれはこの椽側からは左手になつた老梅が散つてしまつて油蟲の防ぎに苦心する頃でなければならぬ
 梅の花はまだ散りはじめない[#地から1字上げ](明治三十六年三月)



底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
   1977(昭和52)年1月31日発行
※誤植と思われる次の箇所も底本のままに入力しました。数字は底本の頁と行数)
しはらくすると(444−2)、目さはりで(444−9)、先つ(445−8)、椽側(445−11他)、偏つて(445−9)、つゝ
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