不しあわせをあざわらっているのか。」
 こういった前置きをくどくどと詳しく述べて退屈するのを私は怖れるが、それはわりあいに幸福だったころのことで、私はそれを喜びながら考えるのだ。私の国、私のたいせつな国よ! 土地の者以外の誰が、汝の川、汝の山、とりわけ汝の愛する湖をふたたび見て感じる歓びを語ることができるだろう!
 けれども、家に近づくにつれて、悲しさと怖ろしさが ふたたび私を圧倒した。夜もひしひしと迫ってきて、暗い山々が見えにくくなると、いよいよ気がふさいできた。あたりの景色は広漠朧朧たる悪鬼の舞台のように見え、自分が人間のうちでいちばん悲惨なものになることにきまっているのを、私はぼんやりと予感した。哀しいことに、私の予感は、たった一つのことをのぞいて、現実となって現われた。当らなかったたった一つのことというのは、私が想像したあらゆる不幸のなかで、私が辛抱することを運命づけられた苦悩の百番目のところを、考えつかなかったことだ。
 ジュネーヴの近郊に着いたときには、すっかり真暗であったが、町の門が閉っていたので、半里あまり手前にあるセシュロンという村でその夜を過ごさなけれはならなかった
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