たので、この男は国外に飛び出し、以前の愛人がこの男の望みに従って結婚したと聞くまでは、帰国もしませんでした。「なんという気高い方!」あなたはそう叫ぶでしょう。そのとおりです。しかし、この男はてんで無学で、トルコ人みたいに無口ですし、無知な不注意というようなものが附きまとっていて、それがこの男の行為をいっそう驚くべきものにしているものの、さもなければ得られた興味と同情をそれだけ減じています。
ところで、僕がちっとばかり不足を言い、あるいは、僕の知らない労苦に対して慰めを心に描くかもしれないからといって、僕が決意を渋っているなどとお考えになってはいけません。それが決まっているのは運命のようなものです。出航がいま延びているのは、天候がまだ乗船を許さないだけのことです。冬はおそろしく酷烈でしたが、春はよさそうな様子で、思いのほか早くやってきそうですから、たぶん予定よりも早く出帆するでしょう。僕はむこうみずはやりません。他人の安否が撲の注意如何に懸っているかぎり、僕がいつも細心で思慮深いことは、あなたもよく知っていて信じてくださるはずです。
僕の企ての近日中のみこみについて感じていることを申しあげることはできません。なかば嬉しくてなかば怖ろしい、慄えるような思いで出発のしたくをしている時の、こんな気もちをお伝えするのは、不可能なことです。僕は、先人未踏の地へ、「霧と雪の国」へ行こうとしていますが、信天翁《アホウドリ》は殺しません。したがって、僕の安否を気づかったり、コールリッジの「老水夫」のように痩せさらばえたみじめな姿で戻って来はしないかと心配なさったりはしないでくれませんか。こんなふうにそれとなく申しあげると、お笑いになるでしょうね。けれども、秘密を漏らしましょう。僕はよく、危険な大海の秘密に対する自分の愛着、自分の激情的な熱中を、近代のいちばん想像力に富んだ詩人の作品のせいにします。僕の魂のなかには、自分にもわからない何かが働いているのです。僕はほんとうに勤勉です。骨身を惜しみません。倦まずたゆまず、ほねをおって働く労働者です。しかも、そのうえに、僕のあらゆる計画にまつわる奇蹟的なものを愛し、奇蹟的なものを信じてもいるのです。それが僕を、平凡な人たちの道から閉め出し、経験しようとしている荒凉たる海や未踏の地へとせきたてることにもなるのです。
さて、しかし、もっと大
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