女はきらきらする目で奥さんを見ました。[#「。」は底本では欠落]そしてありったけの力を出して頭をあげました。
 その時でした、ぼろぼろの服をきてほこりだらけになったマルコが入口に立ったのでした。
 女はびっくりして「あっ」と叫び声をあげました。
 マルコはかけよりました。母親はやせた細い手をのばしてマルコをだきしめました。そして気ちがいのように「どうしてここへ来たのほんとうにお前なのか。本当にマルコだねえ、ああほんとうに」と叫びました。
 女はすぐに医者の方をむいていい出しました。
「お医者様、どうぞなおして下さい。早く手術をして下さい。わたしは早くよくなりたいです。どうぞお医者さま、マルコに見せないで。」
 マルコは主人につれられて部屋を出ました。[#「。」は底本では欠落]奥さんも女たちもいそいで出てゆきました。
 マルコは不思議でなりませんでしたから、
「おかあさんをどうするのですか。」
 と主人にたずねました。
 主人はおかあさんが病気だから手術を受けるのだといいました。
 と不意に女の叫び声が家中にひびきました。
 マルコはびっくりして「おかあさんが死んだ。」と叫びました。
 医者は入口に出て来て「おかあさんは助かった、」といいました。
 マルコはしばらくぼんやりと立っていましたが、やがて医者の足許へかけていって泣きながら、
「お医者さま、ありがとうございます[#「ございます」は底本では「ざざいます」]。」
 といいました。
 しかし医者はマルコの手をとってこういいました。
「マルコさん。おかあさんを助けたのは私ではありません。それはお前です。英雄のように立派なお前だ!」

                                 

底本:「家なき子」九段書房
   1927(昭和2)年10月15日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「或る→ある かも知れ→かもしれ 位→くらい 毎→ごと 沢山→たくさん 只→ただ 一寸→ちょっと (て)見→み (て)貰→もら」
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
※底本中、混在している「コルドバ」「コルトバ」「ゴルドバ」「エルドバ」「マルドバ」は原文をチェックの上、「コルドバ」に統一しました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(前田一貴)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2005年6月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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