くなってただすすりあげて泣いていました。マルコはとうとう病気になりました。三日のあいだ荷車の中で何もたべずに苦しんでいました。ただ水をくれたりして親切にしてくれるものは親方だけでした。親方はいつも彼のところへきては、
「しっかりせよ。母親にあえるのだから」
といってなぐさめてくれました。
マルコは、もう自分は死ぬのだと思いました。そしてしきりに「おかあさん。もうあえないのですか。おかあさん。」といって胸の上に手をくんで祈っていました。
親方は親切に看護をしたので、マルコはだんだんよくなってゆきました。すると今度は一番安心することの出来ない日がきました。それはもう九日も旅をつづけたのでツークーマン[#「ツークーマン」は底本では「シークーマン」]へゆく道とサンチヤゴへ行く道との分れる所へ来たからです。親方はマルコに別れなければならないことをいいました。
親方は何かと心配して道のことを教えてくれたり歩く時にじゃまにならないようにふくろをかつがせたりしました。マルコは親方の体にだきついて別れのあいさつをしました。
三
マルコは青い草の道に立って手をあげながら荷車の一隊を見送っていました。荷車の親方も人足たちも手をあげてマルコを見ていました。やがて一隊は平野の赤い土ほこりの中にかくれてしまいました。
マルコは草の道を歩いてゆきました。夜になると草のしげみへはいってふくろを枕にして眠りました。やがていく日かたつと彼の目の前に青々とした山脈を見ることが出来ました。マルコは飛びたつようによろこびました。山のてっぺんには白い雪が光っていました。マルコは自分の国のアルプス山を思い出しました。そして自分の国へ来たような気持になりました。
その山はアンデズ山でありました。アメリカの大陸の脊骨をつくっている山でした。空気もだんだんあたたかになってきました。そして所々に小さい人家が見えてきました。小さい店もありました。マルコはその店でパンを買ってたべました。また黒い顔をした女や子供たちにもであいました。その人たちはマルコをじっと見ていました。
マルコは歩けるだけ歩くと木の下に眠りました。その次の日もそうしました。そうするうちに彼の元気はすっかりなくなってしまいました。靴は破れ足から血がにじんでいました、彼はしくしく泣きながら歩き出しました。けれども「おかあさんにあえ
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