そして其職業が職業別に全国的、全世界的連帯を樹立すると同時に、地方的に他の全職業と連帯する。そこに有機的な地方土着生活と有機的な世界生活とが相関聯して複式網状体を完成する。
◇
第三に農本主義は現在の強権的統制をそつとしておいて農本的自治を行ふことに依て社会改造の目的を達しようとする。それは百年前にユトピヤ社会主義者が考へたと同じ考へ方だ。意識的に或は無意識的に治者、搾取者の地位から農民を教化し向上せしめようとする考へから出発したこの思想には、無産農民自身の身になつた感情が動いてゐない。どつちへ向いても手足を延ばす余地を持たず、資本と強権との鉄条網をめぐらされて、機関銃と爆撃飛行機とに威迫されて、最後の生命線まで逐ひつめられてゐる無産窮民――即ち土民の心情とは縁遠いものだ。
現制度の下で何か現実的にまとまつた仕事を達成しようとするには農本主義もよろしからう。けれども、それは解放の事業ではない。「土民」は先づ鉄条網を断ち切らなければ団結も共働も自由にはできないのだ。先づ鉄条網を寸断することだ。如何にして周囲の鉄条網を切断するか、それが解放の最初の問題だ。最大緊急な問題だ。
鉄条網に繞らされた土民はいま機関砲も爆撃機も持つてゐない。絶対絶命の土民はたゞ鍛えられた肉弾を持つてゐるのみだ。土民仲間にあつては「爆弾三勇士」なぞは常に到処に見出される。
底本:「石川三四郎著作集第三巻」青土社
1978(昭和53)年8月10日発行
初出:「ディナミック」
1932(昭和7)年9月1日
入力:田中敬三
校正:松永正敏
2006年11月17日作成
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