るのですから
そしてこの孤独に満足さへしようとするのです
けれども
私にあなたが無いとしたら――
ああ それは想像も出来ません
想像するのも愚かです
私にはあなたがある
あなたがある
そしてあなたの内には大きな愛の世界があります
私は人から離れて孤独になりながら
あなたを通じて再び人類の生きた気息《きそく》に接します
ヒユウマニテイの中に活躍します
すべてから脱却して
ただあなたに向ふのです
深いとほい人類の泉に肌をひたすのです
あなたは私の為めに生れたのだ
私にはあなたがある
あなたがある あなたがある

[#天から27字下げ]大正二・三
[#改ページ]

  僕等

僕はあなたをおもふたびに
一ばんぢかに永遠を感じる
僕があり あなたがある
自分はこれに尽きてゐる
僕のいのちと あなたのいのちとが
よれ合ひ もつれ合ひ とけ合ひ
渾沌《こんとん》としたはじめにかへる
すべての差別見は僕等の間に価値を失ふ
僕等にとつては凡《すべ》てが絶対だ
そこには世にいふ男女の戦がない
信仰と敬虔《けいけん》と恋愛と自由とがある
そして大変な力と権威とがある
人間の一端と他端との融合だ
僕は丁度自然を信じ切る心安さで
僕等のいのちを信じてゐる
そして世間といふものを蹂躪《じゆうりん》してゐる
頑固な俗情に打ち勝つてゐる
二人ははるかに其処《そこ》をのり超えてゐる
僕は自分の痛さがあなたの痛さである事を感じる
僕は自分のこころよさがあなたのこころよさである事を感じる
自分を恃《たの》むやうにあなたをたのむ
自分が伸びてゆくのはあなたが育つてゆく事だとおもつてゐる
僕はいくら早足に歩いてもあなたを置き去りにする事はないと信じ 安心してゐる
僕が活力にみちてる様に
あなたは若若しさにかがやいてゐる
あなたは火だ
あなたは僕に古くなればなるほど新しさを感じさせる
僕にとつてあなたは新奇の無尽蔵だ
凡ての枝葉を取り去つた現実のかたまりだ
あなたのせつぷんは僕にうるほひを与へ
あなたの抱擁は僕に極甚《ごくじん》の滋味を与へる
あなたの冷たい手足
あなたの重たく まろいからだ
あなたの燐光のやうな皮膚
その四肢胴体をつらぬく生きものの力
此等はみな僕の最良のいのちの糧《かて》となるものだ
あなたは僕をたのみ
あなたは僕に生きる
それがすべてあなた自身を生かす事だ
僕等はいのちを惜しむ
僕等は
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