ど無駄をする事があり勝ちだ。
 この事は野蛮人に限らない。ルイ王朝のでこでこ服装、隣国に於ける昔日の纏足、それから十二単衣、立兵庫、大礼服、シルクハツト皆同類である、およそ純粋比例に目ざめない文化の結果する所は皆野暮である。もとより野蛮人の文身をはじめシルクハツトに至るまで、それぞれの環境中にそれぞれの美を十分に持つてゐないのではないが、ただその美が如何にも御苦労さまなだけである。
 書籍の装幀について考へる度に私はいつも前述の様な聯想作用に襲はれる。装幀は最大限に実用の必然要求に応じ、その基礎の上に立つ「比例の美」にまで蒸餾せられねばならぬ。天金は塵埃と湿気とへの防備として案出せられた。和本の渋引や雲母引の表紙も同断であらう。背の金文字は暗い書架の中での便宜から出た。ビールを飲むテーブルで読まれる独逸学生の歌謡集の表紙には四隅に金属の足さへついてゐる。かういふ種類の必要に起因する形態の変化は時代と共に行はれるであらうし、それが又新しい美への誘導ともなるであらう。
 今日多く流布する日本の書籍の装幀には遺憾ながら高度の審美を見る事が少い。純粋比例の美による装幀を私は望んでやまない。屡見
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