等に見える。翅の透明な、胸や腹の緑と黒の模様のおもしろい、彫刻に作っては派手なセミである。胴体は短く、腹部の末端の急すぼまりのところが可笑《おか》しい。彫刻では翅は雲母を蒔《ま》いたり、銀粉を掃いたりする。ツクヅクボウシとカナカナとは女性的で、獲《と》るとすぐ死ぬ。姿も華奢《きゃしゃ》で、優美で、青々とした精霊の感じがある。クマゼミ又の名シャンシャンゼミはセミの中で一番巨大で色も黒、緑の外に橙色《だいだいいろ》が交り、翅も透明でしかも強く、形もよいようであるが、此は手にとって見たのでないから詳細は知らない。ハルゼミは先年五月末越後長岡の悠久山の松林の中でその幽遠な声を聞いたが、姿は見なかった。

 セミの彫刻的契機はその全体のまとまり[#「まとまり」に傍点]のいい事にある。部分は複雑であるが、それが二枚の大きな翅によって統一され、しかも頭の両端の複眼の突出と胸部との関係が脆弱《ぜいじゃく》でなく、胸部が甲冑《かっちゅう》のように堅固で、殊に中胸背部の末端にある皺襞《しわひだ》の意匠が面白い彫刻的の形態と肉合いとを持ち、裏の腹部がうまく翅の中に納まり、六本の肢もあまり長くはなく、前肢には
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