があって、やわらかであたたかく、まるで息でもしているかと思われるけはいがする。同じそういう妙味のあるうちにも信親のは刃金が薄くて地金があつい。地金の軟かさと刃金の硬さとが不可言の調和を持っていて、いかにもあく抜けのした、品位のある様子をしている。当時いやに刃金のあつい、普通のぴかぴか光る切出を持たされると、子供ながらに変に重くるしく、かちかちしていてうんざりした事をおぼえている。丸山のは刃金があついのであるが、此は丸刀である性質上、そのあついのが又甚だ好適なのであった。
為事場の板の間に座蒲団《ざぶとん》を敷き、前に研ぎ板を、向うに研水桶《とみずおけ》(小判桶)を置き、さて静かに胡坐《あぐら》をかいて膝に膝当てをはめ、膝の下にかった押え棒で、ほん山の合せ研を押えて、一心にこういう名工の打った小刀を研ぎ終り、その切味の微妙さを檜《ひのき》の板で試みる時はまったくたのしい。
底本:「昭和文学全集第4巻」小学館
1989(平成元)年4月1日初版第1刷発行
1994(平成5)年9月10日初版第2刷発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月20日作成
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