、後者においてブルーノー、ガリレオにあたえた圧迫に出版界が屈したことによって、国運がいかに異なってきたかを思わなければならない。この差が、今眼前に、その子孫に、どんなに苦しみをあたえているかを見るべきである。
あんなに盛んであったローマが、どうして一見物人を引きつける都と化しているかを思うとき、子を持つ日本人は、今、深く思いをここによせるべきである。
あの世界の文化が立上ったフランスの『百科辞典』に向って出版界の資本が立向ったあの輝かしい記録を、今私達はまぶしい思いをもって思いかえす。
勿論、資材、印刷の条件は、敗戦のいたでの中に、未だ傷痕をいやしてはいない。しかし、問題は、民族のこころの中にある古い黒い血潮が、新しいものをフツフツとして取入れて、鮮かなるものに新しく再成することである。昭和のルネッサンスは、この現実の事実からこそ生まれるのである。
一つ一つの店頭に立つ若い人々、図書館人が、遠い波のうねりのように、中央に向ってその声を送ることで、また中央の血も新たになるのである。
私は、この、日に新たなる気迫が、この『出版ニュース』の連なりの中に新たなる年と共にほとばしり出ることを希うものである。
底本:「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」てんびん社
1972(昭和47)年11月20日第1刷発行
1976(昭和51)年3月20日第2刷発行
初出:「出版ニュース」
1950(昭和25)年1月
入力:鈴木厚司
校正:宮元淳一
2005年6月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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