いとなみをしているけれども、その法則を知らない。人間だけが、これらの物の法則ならびに人間がたどるべき法則を知っているのである。かく考えるとき、なるほど五千年の歴史は、人間の悲しみをもたらしているかもしれないが、その背後に、その涙をつぐなうに足るだけのおどろくべき力をつくりあげているのである。
 われわれが文字をもつにいたったということ、それから本ができあがるということ、それを読むということ、さらにまた考えるということは、五千年の歴史をはるかにこえた容易ならざる人類の力を集めた努力の結果なのである。
 一つ一つの本をわれわれが見るとき、その本の背後にひろがる人類の絶えまのない努力と、その鋼鉄のような意欲をわれわれは思い返さなくてはならない。
 五千年の歴史が、もしなんらかの誤りをおかしているとするならば、また二十世紀の歴史がなんらかの誤りをおかしているとするならば、まさに十万年の人間の意欲をまざまざとわれわれの前に示している図書文化こそは、この誤りのきずをいやすただ一つの手がかりである。
 本を前にして、私たちはゆるがせにできない現実に対決しているのである。この世界が戦争の危機に直面して
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