いるとすれば、あらゆる書籍は、「人類が言語を発見していることを思い返すべきである」と叫びつづけている。
百年の戦争の継続があっても、その結末は、結局数頁の講和条約の文章にほかならない。賢明なるものが、その文章を、戦いの前に書くことができたならば、人類は百年の血潮の中をのたうちまわらなくてすむのである。
「話せばわかる」といった犬養氏に、「問答無用!」と拳銃の引き金を引いた考え方が、真直に真珠湾攻撃に通じている。「話す」ということを発見した人類のこころの中には、苦痛をのり越えてきたものの切実な祈りがひそんでいる。直接に血を流さないために、人類はここまで歩みきたったのである。
本の何の文字のできた一つ一つの歴史の中にも、かかる人類の囁きがかくれているのである。
図書館とは、これらの文化遺産の集結である。そして、巨大なる人造人間のごとく、この本を、その要求に応じて、人類の前に引き出せる組織をつくりあげている精密機構である。そしてそれが、国際的構造をもって組み上げてゆくとき、人々は、「平和」を自分たちのものとして、しっかり、自分たちのものとすることができるのである。
底本:「中井正一評論集」岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年6月16日第1刷発行
底本の親本:「中井正一全集」美術出版社
1964(昭和39)〜1981(昭和56)年
初出:「読書」
1950(昭和25)年2月
入力:鈴木厚司
校正:宮元淳一
2005年3月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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