。それがつきて、手がでるのだ。
 戦争も同じだ。何カ年もつづいた大戦争も、いずれ、数ページの講和条約でおわる。もし、この数ページの条約の言葉を、戦いの前に、おたがいにあみだすことができたら、どんなにたくさんの戦争がおこらずにすんだかもしれない。
 言葉はいつも、戦争と戦争している。
 アレクサンダーが戦争している間にも、言葉は、彼の名前をつけたアレクサンドリア図書館となって、彼の三十年の生涯の百倍もの間、今、なお戦いをつづけている。
 赤坂離宮にできた国立国会図書館も、遠い遠い、人間の血汐のなかにそだってきた、言葉のもつ大きなつとめをせおって、日本の戦いへのかぎりない悔いのしるしとして立ちあがったのである。
 この図書館は、日本民族が、戦争のはてに立ちあがってゆくにあたって、その新しい生きかたの法則をさぐりもとめるために、あらゆる材料をのがすまいと、ここにあつめた一つの巨大な新しい夢の殿堂である。
 これまでは、法律は官庁でつくられていた。これからは、国会の手で、法律をつくろうとして、その材料をあつめて、整理をし、その材料から要求された法律の下ごしらえの調査をするのが、この図書館の任務
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