も漲っているかも知れない、凡人の悲しみである。
 しかし、私は、それを、何人のこころにもある、巨大な悲しみとして、胸の底にしまいこんだ。
 私は、ひそかに、悪いことをするもののように、いつの日にか、良い本が出たら、一千冊を直ぐ、買うことのできる、また売ることのできる、大手を振って注文できる組織を、大衆の名において、つくって見せる日に近づこうと誓った。
 このこころを、この三寸の胸に、ひそめていた私は、図書館法通過の責任を担った去年七月、一つの熱情として、私をとらえていた。
 この法案は、日本の村々の涯に、あのつぶらな瞳をした、少年達に、青年たちに本を読ます図書館をつくってやるという法案である。
 こんなに簡単な、こんな明るい法案が、最近の国会の中にあったであろうか。
 しかもこの法案は、人々からいえば、隅のゴミゴミした屑法案の一つでしかなかったかも知れない。ちょうど、義務教育法案が、日清宣戦布告の議案よりも遙かに軽い法案であったように。
 しかし、今から思えば、明治法案中、地方文化にとって、義務教育法案ほど、巨大な意義をもつ法案は、今後の歴史の上においても見出せまい。
 目に見えない法案こそ、巨大な意味をもつことがある。
 図書館法案も、また、地方文化にとっては未来に向かって、巨大な断層をもつ法案である。
 二十六年度、国庫より※[#2分の1、1−9−20]の補助金(八千万円ないしそれ以上)を闘いとることは、全図書館界、出版界の文化運動によって、決するのである。
 中央でのこの戦に勝ち、七月から効力を発する図書館法案を、地方文化の、万人のものとするために生かすこと、これは出版界一九五〇年度の大いなるキャンペーンというべきであろう。
[#地付き]*『出版ニュース』一九五〇年五月上旬号



底本:「中井正一全集 第四巻 文化と集団の論理」
   1981(昭和56)年5月25日第1刷
初出:「出版ニュース」
   1950(昭和25)年5月上旬号
入力:鈴木厚司
校正:染川隆俊
2009年8月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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