つある。この支部図書館の実験は、一つの示唆として図書館機構をして、「実体概念から機能概念へ」という一つの方向を示すかのようである。
戦後の予算の不足から起っている悲しい一つの発見であるが(木炭自動車が世界の驚異であるように)、書庫ができなくても、図書館機構が成立するという考え方である。それは或る省で、図書課なるものが、調査局、渉外局を網羅して、精密な機構をつくるとき、リストとカードをしっかりして置けば、わが館にある十万の外国政府出版物は、その五〇%をその省が利用しているという現象が生じて来るのである。
個人大福帳的、生辞引的なものから、工場機構《ファクトリー・システム》に各省も、図書館も変りつつある。その起工の起点がわが国立国会図書館でなければならない。かくしてわが館は、一般人の公開のサービスはもちろんであるが、かかる全日本の図書館界の大工場機構化に向って、大いなる準備をしつつあるのである。印刷カードも漸く完成の域へ近づきつつある。さらに保存のため映画フィルムに全新聞、貴重図書をうつすこと(マイクロ・フィルム)が始められつつある。さらに一つのカードに三十頁から百頁までの本を印刷して保存するという新しい課題(マイクロ・カード)が、図書館界の革命的実験として行なわれはじめている。
思えば語部《かたりべ》が、『万葉』『古事記』を記憶でもって口から口に伝えていた古代から思えば、文化の道を遠くも辿って来ている。しかし言語を発見したという、鋼鉄の意志でもって貫かれている人類の文化の足跡の一筋を追って行けば、私達が多くの命をその中に投じて悔いない巨大なる道があることを見出す。尚多くの若人がそれを踏みかためて、続かなければならない未来への道でもある。
底本:「論理とその実践――組織論から図書館像へ――」てんびん社
1972(昭和47)年11月20日第1刷発行
1976(昭和51)年3月20日第2刷発行
初出:「婦人公論」
1950(昭和25)年4月
入力:鈴木厚司
校正:染川隆俊
2006年11月2日作成
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