上に現代に意味をもちはじめた。すなわち、技術は近代的科学の名において、また模倣は、普遍的なるものの模倣すなわち調和の名において、フェニックスのごとく灰燼の上に新しき装いをもって立ちあがりはじめた。
いわばギリシャでは、技術[#「技術」に傍点]の概念は人間の身体構成の上にかぎられた。しかし、現代の技術[#「技術」に傍点]の概念は社会構成の上に生産さるる科学的機械的技術をも含む。それは、天才[#「天才」に傍点]をもその一要素として構成因子とするところの巨大な機構の内面である。この技術[#「技術」に傍点]が、近代の視覚、見る意味に大きな変化をもたらしたことは、多くの美学者の指摘するところである。ベーラ・バラージュ、ヴェルトフ、フランツ・ローなどの考えかたが、それである。
それはレンズの見かたの発見である。
それは実に個性なき非人間的存在ではある。しかし、それは見る存在である。いわば見る機能《フンクチオン》の異常なる発展であると共に、実に一つの性格の所有者でもある。
たしかに、人の眼球構造と相似の過程ではある。しかし、望遠鏡や顕微鏡におけるがごとくその視野の拡大と正確性は、人の見る意味の深き飛躍でなくてはならない。そして、いまだ人の見るあたわざりし新しき美わしさを、人はそのレンズを通して見るのである。またレントゲンの出現は、人の眼の見つくすあたわざる存在の内面にまで見る意味を発展せしめる。また映画に見るごとく、動きの再現と、スローモーション、時間的可逆性重複性などの自由性は、見る世界の構成モンタージュに新しき転回をもたらす。
ことに構成において示す一様の調子、明暗の鋭い切れかた、あるいはネガティヴの怪奇性、精密なリアリズム、確実なる直線ならびに曲線への把握性は、人の芸術の達するあたわざる数学的感覚をあたえる。またその把握の瞬間性は、あらゆるスポーツ、踊り、自動車、飛行機、飛行船などのものにまで、美的要素の題材を拡げ、しかもその瞬間の一瞥が何びとの永き正視よりも正しきリアリズムに達することは、見る意味とその把握性に、いずれの天才的巨人の試みよりももっと大きなものをもたらせている。また手法の方向の自由性と光線の方向の自由性のもたらす変革性は、絵画史上のいずれの時代における変革性よりも激しい飛躍をなし終った。
細胞の内面、結晶の構成、星雲の推移、また分子のブラウン運動
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