カットをほりださなければならない映画の構造は、実に新しい文法を創りつつある生成物なのである。創作の最後の仕上げを大衆にゆだねなければならない芸術として、それは第三の冒険を試みつつある。
もはやいずれの美学も、この素材の前には古い色あせたものであって、はるかに個人文化を越えた集団単位の文化の軸の上に、この芸術は、その言語構造と文法と、秩序をみずから創りつつあることを認めなくてはならないのである。
戦後、やたらに会議が多くなって困るという人があるけれども、「委員会」もこの線にそった新しい成長物の一つである。
図書館もその意味では、円天井をもつ威厳ある図書館から、工場のような、百貨店のような、一つの機械としての図書館にうつり、さらに、将来は、一つの民族の、または世界民族のインフォーメイション・センターの組織体の一つ一つとして、より巨大な人造人間の記憶作用とならんとしつつある。ここにも、また、新たな結晶軸を求めつつある人類の生成物が、何かその綱紀を創りつつある。
人類の悩みといっているものは、往々、この新たな秩序を求める解体と生成であることがある。大きい考えかたによれは、それは、より美しくなりつつあることでもある。
底本:「中井正一全集 第三巻 現代芸術の空間」美術出版社
1981(昭和56)年5月25日新装第1刷
初出:「読書春秋」
1950(昭和25)年9月号
入力:鈴木厚司
校正:染川隆俊
2008年4月15日作成
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