ンチノミー的構造を見透す重き歩みでもある。それを人々は弁証法とよんでいる。歴史性とよんでいる。私たちの未来のリズムの内面にはかかる集団的問いへの喘ぎが潜んでいるといわなければならない。
自由通商的個人主義では盛りきれない組織性がすでに時をしっかり掴んでいることを私たちは一瞥にして知ることができる。そしてその喘ぎ[#「喘ぎ」に傍点]と脈搏[#「脈搏」に傍点]と歩み[#「歩み」に傍点]がいかに重く、その潮の干満の浪足がいかに苦しいかを知っている。それらのものが私たちのリズムに向って喚びかける時にその情趣は、まったくそれはトーキー的である、あるいは一般に真空管的でもある。
かくて、リズムをテンポとして、換言すれば歴史的形態の構造を背景として、それへの一瞥をもってする見透し Durchsicht として解釈することは、私たちの今のリズムへの理論的検討として見のがしがたき一つの任務であることを自分は信ずる。そしてかかる見透しのもとに、リズムの原始形態であるすべての自然的肉体的にあらわるる反復現象は常に新たなる風景として、現象として、仮象存在《パラエクジステンツ》の中にもたらされつつあるのを知るのである。決して自然を芸術が模倣するのではなくして、芸術を自然が模倣するのであるというワイルドの語を、再びここに想起してこの稿を閉じよう。終りにこの小論の俯瞰図を掲げて、同人ならびに読者諸兄の峻烈なる爆弾投下に備えたい。
リズムの構造[#「リズムの構造」は太字]
原始形態(潮、波、風――呼吸、脈搏、歩行)……(反復[#「反復」に傍点])
(1)数学的解釈
○時間――客観的法則性……(射影[#「射影」に傍点])
質――量化
×過失性
×機械性
×蓋然性
(2)存在論的解釈
○時間――現存在的把握性……(邂逅[#「邂逅」に傍点])
量――質化
×瞬間性
×個人性
×偶然性
(3)歴史的解釈
○時間――弁証法的構造……(記録[#「記録」に傍点]―企画[#「企画」に傍点])
質――量――質
/過去性
企画性
\瞬間性
/機械性
集団性
\個人性
/蓋然性
必然性
\偶然性
[#地付き]*『美・批評』一九三二年九月号
底本:「中井正一全集 第二巻 転換期の美学的課題」美術出版社
1981(昭和56)年4月25日新装第1刷
初出:「美・批評」
1932(昭和7)年9月号
入力:鈴木厚司
校正:染川隆俊
2007年2月13日作成
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