に示してゐる.その同じ科學が使ひ方によつては平和國家の建設に不可缺の要因であることは前述の通りである.要はこれを如何に使用するかといふことであつて,それは使用する人の態度で定まる問題である.
我が國は最近發表せられた改正憲法の草案にも見られる通り,國家として戰爭を否定しこれを抛棄することを決意し,マ司令部もこれに滿足の意を表してゐるのである.これは正に太平洋戰爭で得られた最大の收穫といはねばならぬ.このことはポツダム宣言受諾の當然の歸結であるが,更に現實の問題として日本は戰爭をする能力がない.即ち何はさて措き原子時代を支配すべき原子爆彈を1個も作り得ないのである.何となれば聯合國より禁止せられてゐるのは勿論のことであるが,その必要もなく地質學者及び鑛物學者のいふ所によれば,日本には必要量のウランは産出しない.又たとへウランがあつたとしても,我が國の技術・經濟が原子爆彈製造の能力をもつやうになる見込みは,到底ないからである.
從つて戰爭が始まれば,日本はそば杖をくつて原子爆彈の慘害を被る以外には何の收得もない.憲法に戰爭抛棄を制定せんとするのは,人道上は勿論のこと,利害關係からも當然のことといはねばならぬ.萬世太平の國是をとつてゐる日本にとつて,科學の興隆は民生に生活の安定を得せしめ,世界平和に貢獻せしむる大きな力を與へる以外の何物でもない.これは平和を好愛するアメリカに於て,科學が如何に物心兩面の文化建設に役立つてゐるかを見れば,思ひ半ばに過ぐるものがあらう.それ故日本に科學を否定することは即ち七千數百万萬の人間を貧困と混亂と惡徳との淵に沈淪せしむることになる.これは日本國民にとつて不幸であるのみならず,世界人類發達の障碍となるものとして避くべきことといはねばならぬ.この見地よりして自分は日本科學の振興に對し,聯合國が特に考慮を拂はれんことを冀ふものである.
3.科學の再建
我が國の科學は支那事變まではその發達目覺しいものがあつたのであるが,それより次第に下り坂となり太平洋戰爭となるに及んで益々進歩を阻まれ,その末期に於ては空襲により痛められ,終戰後は科學者の生活の不安と,戰災復舊の困難と,資材入手の不能とにより,その機能を殆んど停止してしまつた.
科學は眞に救國の具であるが,前述のやうに産業に劃期的革新を齎すことは,現實の問題として遠き
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