は體位の低下を來し氣力の消失を招くのも無理からぬことである.その結果として生産は低下し益※[#二の字点、1−2−22]國民生活を困難にしてゐる.即ち原因は結果を生み,結果は又原因となつてヂリ貧状態を現出する可能性がある.
 これを救ふ道は如何にすべきであらうか.多くの人はすぐ國の政治にその罪を歸し,社會組織の改善を叫ぶであらう.それは恐らく正しい見方かも知れない.然しその方はその道の人に任せて置いて,自分がここに強調したいことは科學者,技術者としてこの危機を脱するためには如何にその義務を果すべきかといふことである.
 勿論われわれは國民としての道義の昂揚,品性の陶冶,教養の向上に努力すべきは當然である.これが凡ての基礎となるのであるが,科學者,技術者としてはその本務として産業の復興といふことに渾身の努力を拂はねばならぬ.これがためには國として一つの組織が必要かも知れない.然し組織倒れでは何にもならないから,先づ實行である.われわれは各自の專門的智識能力を,生産技術の創造と發展とに應用して,新しい方法による新しい物を造らねばならぬ.これによつて産業の復興が上昇線を辿れば,國民は生活に餘裕を生じて禮節を知ることになり,益※[#二の字点、1−2−22]生産は増大し,それが又科學技術の進歩を促すことになるであらう.(1946. ※[#ローマ数字10、1−13−30]. 20)



底本:「自然 300号記念増刊 総収録 仁科芳雄・湯川秀樹・朝永振一郎・坂田昌一」中央公論社
   1971(昭和46)年3月20日発行
※底本は横組みです。
入力:山崎雅人
校正:小林 徹
2005年11月4日作成
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