、市参事会員は其の同一属僚をして更に反対の立案を為さしめたりといへり。市参事会員の行動斯くの如く、市会の形勢亦翻雲覆雨して、氏に求むるに市有案の撤囘を以てしたるに至ては、是れ氏に向て詰腹を切らしめむとするに均し。而も氏は尚ほ晏如として市庁に眠る。知らず氏の意気銷沈したるか、将た大に将来に期する所あるか。
茲に東京市会議長の大岡育造氏といへる大政治家あり。世間或は氏を以て市長の椅子を窺※[#「穴かんむり/兪」、第4水準2−83−17]し、陰に尾崎氏を構陥するの謀主と為すものあり。其の果して然るや否やは記者の知る所にあらざるも、兎に角尾崎氏は自己の身辺に油断のならぬ強敵を控へ、絶えず其の脅かす所となるものゝ如くに見做されたり。誠に危険千万の話なれども、而も此の強敵あるが為に、此の位地は却つて倒れむとして倒れず、今日まで安全に支持し得らるゝの状あるは奇なりと謂ふべし。
大岡氏は巧慧機敏の才子にして善く謀り善く働くと称せらる。之れに反して尾崎氏は正直なる神経質の人物にして、常に上品の手段を以て上品の目的を達せむとし、其の心術に一点の横着なきがゆゑに、頗る野暮にして融通の利かぬ堅気者に似たり
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