功名心から生れたので、策略だの陰謀だのといふほどのものでもないと考へる。
△然らば彼れは何故に此の事を一応政友に相談せずに独断に遣つたかといふに、ソコが則ち河野本来の面目で、彼れは大事を行ふ場合に、人と相談する男でない。又た責任を人と分かつやうなことは好まない方だ。度量が濶いやうで、狭まいやうで、チヨツと尋常人と異つた点がある。
△勿論従来の慣例を破つて、奉答文に閣臣弾劾の意義を含ませるといふことは、相談しても容易に同意を得るものでないことは、河野も能く知つて居たのである。コンな話を正面から持ち掛けて見給へ、代議士などは唯だ胆を潰ぶすばかりで、政党の領袖で候のといつて居る手合でもイザとなると腰を抜かすに極つて居る。相談なんてソンなこと非常の英断を下だす場合に禁物である。
△元来河野は、如何なる地位に居ても、如何なる時代に在ても間断なく仕事をするといふ性格の人でない。彼れは感情の最高潮に達した時でなくては活動を顕はさない質である。世は彼れが久しく蜚ばず鳴かずに居つたのを嘲つて無能といつたが、是れは蜚むだり鳴いたりする動機に触れなかつたので、無能には違ひないが、活動力は消滅した訳でな
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