る人なりといふ者あり、我輩も亦閣下が謹慎にして、常に出処進退に注意するの周到なるを信ずれども、独り閣下が余りに国家を憂ふるに切なるが為に、反つて自家の本領に背きて、漫然今日の難局に当りたるは、我輩甚だ閣下の為に歎惜する所なり、閣下或は国家の急、敢て一身の利害を顧るに遑あらずと言はむ、此の類の言語は、古来往々愛国者の口より聞く所なりと雖も、国家の急は決して斯る単純なる思想の能く済ふ所に非るを奈何せむや。
曩に閣下の内閣を組織するや、自ら天下に告白して、我れは一介の武弁なりといへり、是恐らくは閣下の謙辞に過ぎざる可しと雖も、其の中亦閣下が自ら知るの明あるをも表示せり、今此の自知の明ありて、尋常愛国者の軌轍を脱する能はず、強て国家の急に赴て之を済ふ所以の経綸なく、而して其の有る所のものは一時姑息の施設に非ずむば則ち行政の紊乱と、議院政略の小成功とを見るのみ、是れ豈閣下の初心ならむや。
相公閣下、閣下にして若し其初心を点検せば、閣下恐らくは一日も現時の位地に晏然たる能はじ、我輩の見る所に依れば閣下は初期議会を切り抜けたる時を以て、正さしく閣下が政治舞台の千秋楽と為すべかりき、蓋し初期議会は
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