何たる捏造説ぞ、余の夢にも覚えざる虚聞なり。
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是れ彼れが記者を其の応接間に迎へて、微笑を帯びながら、而も極めて明白に喝破したる劈頭語なりき。曩に高知政友会支部に紛擾あるや、彼れは老躯を起して故郷に帰れり。其の紛擾に対して、自ら責任ある裁决を与へむが為には非ず、唯だ郷党の要望に応じて、情誼上の忠告を与へむが為に外ならざりき。彼れは一種の意見書を発表したりき。此の意見書には政治哲学の旨義を含蓄せる文字あれども、政党首領の宣言書《マニフエスト》と全く其の体様を異にしたる個人的立案なり。彼れ豈当世に野心あらむや。

      其二 時代の事業
 彼れは白縞の綿服に紺太織の袴を着け、籐椅子に凭れて日本製のシガレツトを吹かしながら、反切明亮なる土佐音にて談話を続けたり。
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政治界は権勢、名誉、利禄及び人爵の中心点なり。故に世俗の欲望皆此に集注す。独り社会事業に至ては、本来無報酬にして一も如上の欲望を※[#「厭/(餮−殄)」、第4水準2−92−73]かしむるに足るものなし。是れ政治的退隠者たる板垣の為に好個の事業に非ずや。
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