1−3−29]横浜埋立事件起るや、彼れは以為らく是れ乗ず可きの機なりと、此に於て乎、一方に於ては其機関『日々新聞』をして星氏の攻撃を為さしめ、一方に於ては窃に土佐派を指嗾して星除名論を唱へしめたり※[#白ゴマ、1−3−29]
 彼れが横浜埋立事件を以て星氏を征伐せむとしたるは、猶ほ共和演説事件を以て尾崎氏を攻撃したる戦略《タクチツク》に同じ※[#白ゴマ、1−3−29]其妙は構陥に巧みなるに在り※[#白ゴマ、1−3−29]而も正々堂々たる勝敗は、決して斯くの如き戦略に依て定まることなきを奈何せむ。

      (五)星征伐の失敗 
 自由党にして若し果して党紀を振粛するが為に星氏を除名するの必要あらむか、何ぞ比較的信用ある末松、江原等の君子人をして之れを提議せしめざる※[#白ゴマ、1−3−29]然るに党紀振粛、星除名論を唱ふるものは、反つて社会に信用なき人士に多くして、末松、江原等の君子人は、党紀振粛の代りに、党の平和を主張したるは何ぞや※[#白ゴマ、1−3−29]是れ他なし、党紀振粛は真の党紀振粛に非ず、星除名論は亦唯だ嫉妬的感情の発現に外ならざればなり。
 有体にいへば末松、江原等の君子人が、尚ほ党の平和を口にして滔々たる濁流と浮沈するは頗る解す可からざるものあるに似たり※[#白ゴマ、1−3−29]されど自由党の現状を維持するの必要最も大なるに於ては、党紀の振粛よりも先づ党の平和を計らざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]党の平和を計るが為には勢ひ星除名論を鎮撫せざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば、たとひ星除名論を実行するも、自由党の腐敗は固より救ふに足らず、適々以て自由党の分裂を見るに過ぎざればなり。

      (六)排星運動の遺算
 排星運動には確かに二個の遺算ありき※[#白ゴマ、1−3−29]第一星氏の位地を誤解したるより来り、第二伊藤侯の意思と衝突したるより来れり。
 星除名論者は以為らく、横浜埋立事件に関して星氏に反対する同盟中には、星氏の直参と認む可きもの少なからず※[#白ゴマ、1−3−29]是れ彼れが全く自由党員の心を失ひたる証なり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れと進退を同うするもの恐らくは二三子のみならむ※[#白ゴマ、1−3−29]今や彼れの自由党に於ける位置は殆ど孤立なりと※[#白ゴマ、1−3−29]されど彼れに反対するものは悉く除名論者に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]彼等は決して『星の天下』を争ふて之を他人に移さむとするものゝみに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]多数の自由党員は、尚依然として『星の天下』たらむことを望めり※[#白ゴマ、1−3−29]『星の天下』を奪はむとするものは唯だ星氏の為に失意の地に落ちたる一部の人士のみ※[#白ゴマ、1−3−29]横浜埋立事件に関して星氏に反対せる信州組の如きは、実は星氏を敵とするに非ずして、小山田某に向て利益分配の強請を為したる一種のユスリたるに過ぎず、之れを認めて星氏に対する政治的謀叛と為したるは、排星運動の第一遺算に非ずして何ぞや。
 且つ星氏を除名せば、随て西郷内相を排斥せざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]何となれば西郷内相の横浜埋立事件に関係せるは星氏の之れに関係せる事情に同じければなり。而も西郷内相の排斥は、現内閣破壊の動機と為るを認むるに於て、星除名論者は如何にして其事後を善くせんとする乎※[#白ゴマ、1−3−29]土佐派の目的は是れに依りて伊藤内閣を出現せしめんとするに在らむ※[#白ゴマ、1−3−29]されど伊藤侯は決して逆取の手段を断行する政治家に非ず※[#白ゴマ、1−3−29]たとひ侯の野心勃々たるを以てすと雖も、其手を下だすや常に順境に於てするを得意とせり※[#白ゴマ、1−3−29]若し山県内閣にして自然に崩壊する日来れば、侯は固より其後を受くるを躊躇するものに非ず※[#白ゴマ、1−3−29]独り自ら現状打破の主動力と為るは、侯の本意に非るを奈何せむや※[#白ゴマ、1−3−29]況むや侯の最も親善なる西郷侯を死地に陥るゝが如き隠謀の張本人たるは、侯の甚だ懼るゝ所なるをや※[#白ゴマ、1−3−29]星除名論は、此点に於て侯の意思と衝突したるを以て、侯の声援に須つ所ありし土佐派は、遂に最初の計画を中止せざる可からず※[#白ゴマ、1−3−29]是れ排星運動に於ける第二の遺算なり。

      (七)組織改造論
 星除名論に失敗したる土佐派は、更に組織改造論を唱へて第二の排星運動を開始せり※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し是に依りて板垣総理の時代を復活し、土佐派の天下を再興し、以て星氏の勢力を削らむと欲するに外ならず※[#白ゴマ、1−3−29]されど星除名論の失敗は、星氏の勝利を意味し、星氏の勝利は、星氏の自由党に於ける勢
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