た直接に改進党と関係なかりしは固よりいふを待たず※[#白ゴマ、1−3−29]其の党勢の思ふほど拡張せざりしは盖し亦是れが為ならずとせんや※[#白ゴマ、1−3−29]独り板垣伯は然らず※[#白ゴマ、1−3−29]其の自由党に於ける十年一日の如く、自ら党員の前駆となりて四方に奔走し、間断なき運動と恒久なる熱心とは、深く党員の信望を収めて能く之れを統一し、時に或は党中紛擾の事ありと雖も、彼れと党員との関係は、是れを以て必ずしも冷却するに至らず※[#白ゴマ、1−3−29]而して今や彼は、其の党与を挈けて伊藤内閣と結托し、遂に自由党総理たる勢力を擁して入て内相の椅子に就く※[#白ゴマ、1−3−29]是れ政党首領として他の一侯両伯に比し、明かに体裁善き成功を得たりと認む可きものなり※[#白ゴマ、1−3−29]余は即ち此の一事を挙げて以て彼れの人物を偉なりといはむ※[#白ゴマ、1−3−29]彼れが最も誇る可きは亦恐らくは此一事に在らん歟。
人或は曰く板垣伯入閣は無条件なり、彼れは総理の資格を以て入閣する能はずして元勲の名義に依りて入閣す※[#白ゴマ、1−3−29]是れ伊藤内閣に欺かれたるなりと※[#白ゴマ、1−3−29]然れども其の如何なる名義に依て入閣せるに拘らず、彼れと自由党との関係実際に消滅したりとは何人も認むる能はじ※[#白ゴマ、1−3−29]况んや彼の入閣は自由党と伊藤内閣との結托に原づき、自由党一致の同意を得、自由党全体の意思を代表して入閣したるを事実とす可きをや※[#白ゴマ、1−3−29]仮りに伊藤内閣の為に欺かれたりとせむ※[#白ゴマ、1−3−29]是れ自由党全体の欺かれたるのみ、彼れが自由党を代表して入閣したる事実を抹殺する能はざるなり。
故に彼れの入閣は、少なくとも政党内閣に進むの門戸を開き、以て今後の政局に一変化を与ふるの動機となりたるものなり※[#白ゴマ、1−3−29]固より彼れが果して能く其の目的を達し得るや否やは容易に断言す可らざるのみならず、寧ろ技倆の称すべきなき一老漢を以て内務の難局に膺る※[#白ゴマ、1−3−29]其の或は久しからずして一敗するに至るも亦未だ知る可からず※[#白ゴマ、1−3−29]然れども彼れは既に根拠を自由党に有するに於て、再び野に下るの日は之れを率いて以て其の敵とするものと戦ふの力あり※[#白ゴマ、1−3−29]伊藤内閣にして彼れを欺き自由党を欺くの事実明白となることあらば、彼れは直に復讎的姿勢を取て伊藤内閣に向はむ※[#白ゴマ、1−3−29]是れ伊藤内閣の大に苦む所にして自由党の窃かに負む所なり。彼れが伊藤内閣と結托したるは、彼れの名誉に於て大なる損失あり※[#白ゴマ、1−3−29]人は彼れを変節者と呼べり、軟化したりと笑へり※[#白ゴマ、1−3−29]太甚しきは彼れを嘲つて主義と利福を交換したりといひ、彼れが岐阜の遭難に死せざりしを不幸と為すに至れり※[#白ゴマ、1−3−29]彼れは方にあらゆる醜詬詆辱の重囲に陥り、満身悉く傷痍を受けて殆ど完膚なきを見る※[#白ゴマ、1−3−29]然り彼れが盛名の時代に死せざりしは実に彼れの不幸なりき※[#白ゴマ、1−3−29]大不運なりき※[#白ゴマ、1−3−29]さもあらばあれ彼れは他の元勲政治家に比して最も堅固なる根拠を有せり※[#白ゴマ、1−3−29]政党の首領として最も素養ある位地を有せり※[#白ゴマ、1−3−29]他の元勲政治家は未だ利害を同ふするの政党を擁するものなく、一旦政党に頼るの必要を認むるに於て、唯だ現存の政党を利用するか、若くは新たに之れを製造するの二途あるのみ※[#白ゴマ、1−3−29]然るに板垣伯の自由党に於けるは、多くの年所を閲みして終始相提携し、以て離る可からざるの関係を為せしに由り、彼れは尚ほ厳として政界の一勢力たるを失はざるなり。
彼れは能く始めより政党の真意義と真作用とを融会したりしや否や、将た政党内閣を組織するの自信を有して自由党と飽くまで進退を倶せんとするや否や、共に吾儕の知る所に非ずと雖も、とにかく日本政党中に在て、彼れは最も旧き歴史ある自由党の首領として、比較的成功を得たるの事実は甚だ多とするに足れり※[#白ゴマ、1−3−29]余は彼れが心術の正邪醇駁分明ならざるを以て、此の一成功を没するに忍びざるなり。(廿九年五月)
最近の板垣伯
其一 劈頭の喝破
曾て自由神の化身として、憲政の天国を建設す可く藩閥の悪魔と健闘したる老英雄も、今や其の屠竜搏虎の手を収めて、平和にして且つ女性的なる社会事業に老後の慰藉を求むるの人となりぬ。曰く風俗の改良、曰く日本音楽の改良、曰く労働者の保護、曰く盲人の教育、曰く女囚乳児の保育、是れ彼れが老夫人の熱切なる同情と協力とに頼りて、現に社会に寄
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