なく、文采の燦爛たるものなく、活気の飛動せるものなく、常に克己、自制、規律を以て鍛錬せられたる軍人気質の標本たりき。是れ必らずしも温暖なる情緒を欠けるが為に非ず。彼れの友誼心の深厚にして且つ恒久的なりしは、彼れの親近者の皆認識する所にして、是を以て彼は好愛せられざりしも、信頼せられ、帰依せられ、服従せられたりき。而も彼れをして人望の偶像たらしむるには、彼れの人格は余りに厳粛にして陰気なりき。之れが我が山県公爵に見るも、亦大同小異の模型に逢ふの感なからずや。
 若し政治家を俳優と同視し、其の世に処するや、恰も俳優の舞台に立つが如く、其の言行絶えず公衆の耳目に印象を与ふるを以て能事とすること、猶ほ俳優が一に大向ふの喝采を博するの技術を尽すに似たるを取るべしとせば、山県公爵の如きは最も割の悪しき政治家なり。若し之れに反して、公衆には好愛せられざるも、共同者には信頼せらるゝの徳を有し、新聞紙の寵児とはならざれども、上御一人の覚え頗るめでたく、名声に於ては甚だ揚らざるも、勢力に於て確実なる基礎を有するものありとせば、其政治家として成功するの要素果して孰れに多しとすべきか。山県公爵は完全なる政治家に非ざるべし、然れども少なくとも彼は俳優的政治家に非ずして、実質ある成功を期図するの政治家なり。彼は此の実質ある成功を期図するに於て、毫も公衆の声援を藉るの手段を執らざるものゝ如し。公衆の声援なきも、実権を有するときは政治に成功するの難からざるを知るの政治家なり。故に彼は国民に接近するよりも、先づ権力に接近するの地盤を作るに努めたり。此の点に於て大隈伯爵は固より彼れに及ばず、伊藤公爵と雖も或は彼れの用意の周到に如かざるべし。
 現時の政治界は漸く元老の手を離れて新人物の斡旋に附せられむとするに於て、山県公爵の勢力は遠からずして実存の形を失ふべきや必然なり。而も所謂る山県系と目せらるゝ桂、清浦等の一派が、尚ほ新時代の勢力として優に大政党と対抗するに足るを見れば、山県公爵の涵養したる勢力の鞏固にして、其の根柢の深かきものあるを想ふべし。大隈伯爵の周囲には一人の小大隈と認むべきものなく、伊藤公爵の幕下にも亦小伊藤と称すべきものあらざるに、独り山県系に属する遊星の多数は、孰れも小山県の面目を備へたり。是に由て之れを観れば、彼れの感化力も亦驚くべきものなくむばあらず。以て彼れの真価の存する所を知
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