相許し意気相投じたる結果にも非ずして、唯だ一時の利害に依りて偶然相合したるに過ぎざるを以て、其の提携の亦利害に依りて破るゝに至るも自然の勢なりと謂はざる可からず、而して星亨なる人物は実に自由党の代表者として、前には閣下と共に詐偽の政治的約束を締結し、後には謂れなき報償を強請して閣下を陥擠せむと試むるの主謀者なり。
 彼は曾て剛腹破廉耻の議長として衆議院を除名せられたるほどの不名誉の人物なり、今こそ自由党の専制君主として、凶炎赫灼たれども、是れ自由党の無能力なるが為にして、必らずしも彼れの資望独り高きが故に非ず、現に憲政党内閣時代に於て、時の自由派大臣は、彼れが外務大臣たらむとする野心を牽制せむとして、伊東巳代治男を外務大臣候補者に推薦したる事実ありしは、豈其の明白なる証拠に非ずや、而も一朝憲政党内閣倒れて閣下の内閣起るに及で、彼は恰も風雲の際会を得たる悪竜の如く、遽かに飛舞騰躍して自由党を惑乱し、曾て自由党の中堅たる土佐派すらも殆ど屏息して彼れの指命を受くるの止むを得ざるに至る、亦憐まざる可けむや。
 世間或は彼れを時代の権化として、其の技倆手腕に畏服するものあり、我輩を以て彼れを観れば、彼は高等長脇差の隊長にして、僅に政治家の外套を着けたる一個の野人のみ、其の最も長ずる所は、唯だ善悪是非を問はずして然諾を実行するの大胆即ち是れなり、彼れが政治上の罪悪を犯したるも此に在ると同時に、彼れが党与の歓心を得るも亦此に在り、而して政治道徳の問題の如きに至ては、彼れ固より冷眼を以て之れを度外に附したり、是れ其の為す所一も常識を以て測る可からざるものある所以なり。

      ※[#始め二重括弧、1−2−54]二十四※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 山県相公閣下、閣下が星亨氏を利用して自由党を操縦したるは、即ち可なり、さりながら此れと同時に、閣下は絶えず彼れの為に詛はれつゝあるを自覚せざる可からず、彼は如何なる没義道の策略をも実行して閣下の内閣に自由党を盲従せしめたり、閣下或は之れを徳とするも亦可なり、さりながら此れと同時に、閣下は彼れが無報償にして一事をも為さざる三百代言的気質あることをも認識せざる可からず、顧ふに閣下は彼れが曾て急激なる自由主義の論者として慓悍猛戻なる言動ありしを記憶し以て其の今日に於て反つて閣下等の主張せる国家万能主義を迎合するの態度を意外とするな
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