反動あるを予期し置かざる可からず、世には伊藤侯の心事をさま/″\に臆測するものあれども、我輩の見る所に依れば、閣下の内閣は恐らくは伊藤侯の理想に適合したる内閣に非ざると共に、自由党に於ても初めより閣下の内閣に同情を表するに非ず、我輩の所謂る政治上必然の反動とは即ち此の形勢より出現す可き第二の変局をいふなり、請ふ閣下の為に其の大略を語らむか。
※[#始め二重括弧、1−2−54]十五※[#終わり二重括弧、1−2−55]
山県相公閣下、我輩が憲政党内閣の破壊を以て伊藤侯の本意に非ずといふは何に由るや※[#白ゴマ、1−3−29]蓋し其の理由は極めて単純明白なり、曩に憲政党の成立するや、伊藤侯は政党内閣の機運既に到りたるの現象と為し閣下等に向て政府党組織の議を詢りたるも、閣下等は狭義の憲法論を主張して之れに同意を表せず、太甚しきは憲法の一部を中止す可しと唱へたる黒田伯の如き妄論家すらありたるを以て、乃ち一は閣下等の守旧思想を打開せむが為めに、一は政局の進転を利導せむが為めに、現に憲政党の統率者たる大隈板垣両伯に向て断然政府を引渡したる伊藤侯の心事に至ては、世間何人も復た之れを疑ふものなかる可きを信ず、侯の心事実に斯くの如しとせば、侯たるもの又何が故に其の自ら助成したる内閣の遽かに破壊するを望むと謂はむや、是れ豈極めて単純明白の理由に非ずや。
当時閣下の属僚等が百方憲政党内閣の破壊を企つるや、世人は之れを伏見鳥羽の一揆に比して、頗る其の頑愚を冷笑したりと雖も、不幸にして憲政党内閣は、此の頑愚なる一揆の為めに取つて代はらるゝの運命に遭遇し、以て政局をして再び旧世界に退却せしめたり、是れ独り伊藤侯の本意に非ざるのみならず、自由党の多数も亦决して之を冀望せざりしは明白なるに、当時自由党が一二の野心家の為めに操縦せられて、自ら建設したる内閣の破壊を招きたるは、我輩唯だ其の無謀無算に驚かざるを得ざりき、我輩は伊東巳代治男及び星亨氏が、前後外務大臣候補者として失敗したるを遺憾とし愚直なる板垣伯を煽動して権力均衡の提議を為さしめたるを認めて、其の最初の目的が決して閣下の内閣を造り出だすに在りと信ずるものに非ず、何となれば此の二政治家は単に進歩派の勢力膨脹を妬みたる外には、別に何等の成算ありしと思はれざればなり、去りながら権力均衡の題目は、最初より憲政党内閣の破壊を計画したる
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