や、伊藤侯は政黨内閣の機運既に到りたるの現象と爲し閣下等に向て政府黨組織の議を詢りたるも、閣下等は狹義の憲法論を主張して之れに同意を表せず、太甚しきは憲法の一部を中止す可しと唱へたる黒田伯の如き妄論家すらありたるを以て、乃ち一は閣下等の守舊思想を打開せむが爲めに、一は政局の進轉を利導せむが爲めに、現に憲政黨の統率者たる大隈板垣兩伯に向て斷然政府を引渡したる伊藤侯の心事に至ては、世間何人も復た之れを疑ふものなかる可きを信ず、侯の心事實に斯くの如しとせば、侯たるもの又何が故に其の自ら助成したる内閣の遽かに破壞するを望むと謂はむや、是れ豈極めて單純明白の理由に非ずや。
 當時閣下の屬僚等が百方憲政黨内閣の破壞を企つるや、世人は之れを伏見鳥羽の一揆に比して、頗る其の頑愚を冷笑したりと雖も、不幸にして憲政黨内閣は[#「不幸にして憲政黨内閣は」に傍点]、此の頑愚なる一揆の爲めに取つて代はらるゝの運命に遭遇し[#「此の頑愚なる一揆の爲めに取つて代はらるゝの運命に遭遇し」に傍点]、以て政局をして再び舊世界に退却せしめたり[#「以て政局をして再び舊世界に退却せしめたり」に傍点]、是れ獨り伊藤侯の本意に非
前へ 次へ
全497ページ中296ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング