せざるを得ざりき」に白丸傍点]。
 松隈内閣は果して公の豫想に違はず、所謂薩派と進歩派との紛爭日に絶えずして、忽ち瓦解するに至れり。政界は再び伊藤内閣を復活したりき。而も其の内閣は舊に仍りて超然主義を唱へたりしがゆゑに、自由黨は反旗を飜へして内閣攻撃の位地に立ち、尋で進歩黨と合同して憲政黨と爲るや、伊藤侯は大隈板垣二老を奏薦して新内閣を組織せしめ、茲に始めて政黨内閣の組織を見るを得たりき。而も此の内閣は、政黨内閣としては最も醜惡を極め、特に人才の選叙に於て當を得ざるもの頗る多かりき。黨派の腐敗漸く此の時より助長し、政界の溷濁復た濟ふ可からざるの状態に陷りたり。是に於てか、公の政黨内閣に對する信念は、多少の動搖を始め來りしものゝ如くなりき。公曰く、政黨内閣は暫らく斷念せざる可からず[#「政黨内閣は暫らく斷念せざる可からず」に白三角傍点]と。但だ公の君國に忠實なる、憲政の運用を圓滑ならしむるの道に於て、曾て一日も之れが講究を忘れたることあらず。故に第十八議會に於て[#「故に第十八議會に於て」に傍点]、桂内閣と衆議院と衝突するや[#「桂内閣と衆議院と衝突するや」に傍点]、公は無益の紛爭によりて國務の進行を阻碍するを見るに忍びず自ら兩者の間に立ちて妥協を謀らむとしたりき[#「公は無益の紛爭によりて國務の進行を阻碍するを見るに忍びず自ら兩者の間に立ちて妥協を謀らむとしたりき」に傍点]。其の盡力は成功せざりしと雖も[#「其の盡力は成功せざりしと雖も」に傍点]、世人は深く公の苦心を諒としたりき[#「世人は深く公の苦心を諒としたりき」に傍点]。
 余の見たる近衞公は、日本貴族の最高貴なる血液を遺傳したると共に[#「日本貴族の最高貴なる血液を遺傳したると共に」に二重丸傍点]、又た其の最純良なる性質をも禀受したりき[#「又た其の最純良なる性質をも禀受したりき」に二重丸傍点]。其の名利の範疇を超脱して、一意唯だ君國に報効せむことを圖りたるは之れが爲なり。然れども公は黨派政治家として成功するの人に非ざりしが如し[#「然れども公は黨派政治家として成功するの人に非ざりしが如し」に白丸傍点]。何となれば山野の習氣を帶びたる黨人を指導するよりも[#「何となれば山野の習氣を帶びたる黨人を指導するよりも」に白丸傍点]、君側に侍して献替補弼するの[#「君側に侍して献替補弼するの」に白丸傍点]、寧ろ公の人
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