して天皇陛下より特絶の待遇を受け、内外の重大なる國務は、一として彼れの與かり知らざるものなく、恐らくは最後の眞理を最初に聞くべき位地に居るものは彼なるべし[#「恐らくは最後の眞理を最初に聞くべき位地に居るものは彼なるべし」に白丸傍点]。蓋し日清戰爭以來、軍事は政治機關の強部を占め、所謂る戰後經營なるものゝ如き、畢竟軍事を主として財政を從としたる立案たるに過ぎざるの觀あり。之れに加ふるに日露大戰の經驗を以てしたるに於て總ての政治問題は殆ど軍事萬能主義に依て左右せらるゝの傾向を現はせり。則ち是の時に當りて、政府の樞機は軍事を心軸として囘旋するが故に、政治問題の秘鍵を握るものは亦軍事當局者なりと推定するも可なり。而して山縣公爵は軍國の大首領として優越的威望を有するのみならず、軍事と政治の關係を研究するに於て又他の元老の何人にも勝れるは言ふを俟たず。斯くの如き威望と長所とを兼備せる山縣公爵が最も早く政治問題の極意に通じ得べき地位に在るは當然なりと謂ふべし。但だ彼は當局者としても、局外者としても常に超然として公衆環視の圈外に特立せむとするの態度を執るものゝ如く、伊藤公爵大隈伯爵等が終始公衆の耳目を聳動せむとすると頗る其の趣を異にせり。されば伊藤公爵大隈伯爵等は、其の妍醜瑕瑜大概露見して蔽はるゝ所なきも、山縣公爵の眞價は容易に公衆の窺ひ知る所とならず。彼は輪廓明白なる一人格としてよりは[#「彼は輪廓明白なる一人格としてよりは」に白丸傍点]、寧ろ人格化したる一勢力として國民の眼に映ぜり[#「寧ろ人格化したる一勢力として國民の眼に映ぜり」に白丸傍点]。從つて國民は彼れの存在を政權と聯結して觀察するに止まり[#「從つて國民は彼れの存在を政權と聯結して觀察するに止まり」に白丸傍点]、眞に能く彼れの人格を領解し得るものは甚だ少なきに似たり[#「眞に能く彼れの人格を領解し得るものは甚だ少なきに似たり」に白丸傍点]。
且つ伊藤公爵も、大隈伯爵も、其の私生涯と公生涯とを問はず、均しく之れを公處の白堊光裡に展開して彼等の自由批評に任ずと雖も、山縣公爵に至ては、公私の生涯に截然たる分界あるが故に[#「公私の生涯に截然たる分界あるが故に」に白丸傍点]、其の私生涯は醇粹なる私生涯にして殆ど公衆と何の交渉する所なし[#「其の私生涯は醇粹なる私生涯にして殆ど公衆と何の交渉する所なし」に白丸傍点]。彼は朝
前へ
次へ
全249ページ中177ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鳥谷部 春汀 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング