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 山縣相公閣下、我輩は閣下頃ろ辭任の意あると聞き、竊かに閣下が處决の時機を得たるを賀したりしに、今や又閣下が策士の言に動かされて忽ち留任の心を起したりといふを聞きては、我輩深く閣下の聰明頗る蔽はるゝ所あるを惜まずむばあらず、閣下に留任を勸告するものは自由黨の毫も畏る可からざると、伊藤侯の遽かに起つの意思なきとを以て閣下の聰明を蔽はむとすと雖も是れ姑息の計を進めて反つて閣下の過失を再三せしめむとするの妖言なり、閣下が既往三年間の歴史を觀るに閣下の過失は實に此の類の妖言に原本したるもの多し、閣下は元來謹厚愼密にして進退を苟もするの人に非ず、而も其の屬僚を有すること他の元勳よりも多數なるを以て、動もすれば佞嬖の小人に擁せられて不測の過失に陷ること少なきに非ず、今に於て尚ほ自ら悟らずむば、閣下恐らく恢復す可からざる汚名の下に沒了せむ。
 相公閣下、閣下は政治家として他の元勳に卓出したる技倆を有するに非ず、而も其の内閣を組織してより既に二會期の議會を通過し、兎も角も比較的長期の内閣の首相として今日まで無事なるを得たり、此の點よりいへば、閣下は藩閥元勳中最も幸運なる位地に立てりと謂ふ可し、夫れ賢者は名を惜み[#「夫れ賢者は名を惜み」に傍点]、哲人は身を保たむことを思ふ[#「哲人は身を保たむことを思ふ」に傍点]、閣下はたとひ政治家たるの技倆なきも[#「閣下はたとひ政治家たるの技倆なきも」に傍点]、賢哲の用意を爲すに於て未だ必らずしも晩れたりと謂ふ可からず[#「賢哲の用意を爲すに於て未だ必らずしも晩れたりと謂ふ可からず」に傍点]、閣下何ぞ之れを熟計せざる[#「閣下何ぞ之れを熟計せざる」に傍点]※[#白ゴマ、1−3−29]且つ夫れ閣下は蒲柳の質、氣力亦頗る衰へたり、曾てサーベル政略を以て黨人に畏怖せしめたるもの今は黨人を迎合して僅に一時の苟安を謀るに汲々たり、顧みて内外の形勢を觀れば、國務益々多端にして、總て盤根錯節を斷つの利器を待つものたらざるなし、閣下たとひ愛國の至情自ら禁ずる能はざるものあるも閣下の健康到底之れに堪へざるを奈何せんや、想ふに閣下亦必ず負荷の難きを知らざるに非らじ[#「想ふに閣下亦必ず負荷の難きを知らざるに非らじ」に傍点]、之れを知つて尚ほ且つ自から斷ずる能はざるは[#「之れを知つて尚ほ且つ自から斷ずる能はざるは」に傍点]、唯だ屬僚に對する關係より脱離す
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