本帝國の代表者として久しく外人に知らる。而も侯は伯に比すれば稍々個人的にして、其の頭腦は獨自一己の圭角を有せり。侯は決して大隈伯の如く社會の各階級と適合し得るの性格を有せず。大隈伯は落々たる自由心胸《オープンハート》を有すれども、伊藤侯は快活なる間にも多少の保守的精神あり。大隈伯は好んで言論を公表し、而も之れを公表するに於て殆ど時と場所とを選まざるの傾あれども、伊藤侯は天賦の辯才あるに拘らず、之れを使用するに於て頗る謹愼なり。
されば大隈伯は[#「されば大隈伯は」に白丸傍点]、其の生活に於ても[#「其の生活に於ても」に白丸傍点]、飽まで現在的社交的にして[#「飽まで現在的社交的にして」に白丸傍点]、一點山林の氣象なしと雖も[#「一點山林の氣象なしと雖も」に白丸傍点]、伊藤侯は江湖の詩趣を解するに於て[#「伊藤侯は江湖の詩趣を解するに於て」に白丸傍点]、稍々東洋賢人の面目あり[#「稍々東洋賢人の面目あり」に白丸傍点]。侯は一年中の多くの時間を大磯の閑居に費やし、公務の外帝都に出づること極めて少なく、俗客と酬接するよりも、寧ろ讀書に親しむの性癖あるを以て、必らずしも社交の中心たるを求めざるが如し。大隈伯は決して一日も此般の生活状態を忍ぶ能はざるなり。伯は早稻田に廣大なる庭園を有し、園中には無數の珍奇なる花卉を蓄へり。特に其温室は伯の最も誇りとする所にして、室内は四季常に爛漫たる美花を以て飾れり。伯は園藝道樂を最も高尚なるものとし、屡々人に向て、花を愛するものは善人なりとの格言を繰り返へして自ら喜ぶと雖も、伯の花を愛するは[#「伯の花を愛するは」に白三角傍点]、詩人の美神に※[#「りっしんべん+淌のつくり」、第3水準1−84−54]※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]するが如くならず[#「詩人の美神に※[#「りっしんべん+淌のつくり」、第3水準1−84−54]※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]するが如くならず」に白三角傍点]、又た聖者の自然を樂むが如くならずして[#「又た聖者の自然を樂むが如くならずして」に白三角傍点]、唯だ其の社交に色彩を添ゆるが爲に之れを愛するのみ[#「唯だ其の社交に色彩を添ゆるが爲に之れを愛するのみ」に白三角傍点]。若し早稻田の庭園にして一たび社交と隔離せば伯の園藝に對する趣味は、恐らくは彼れが如く濃厚ならざる可し
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