草藪にも涼しい虫の音が湧きはじめ、とよ子の窓からも見える、遠い空の星の光りも、夜々に美しくなっていた。
「おばさん、私が死んだら私の持物を全部おばさんにあげるわ」
ある夜私はとよ子のこの声をきいた。もうこの世の命数も二三日に迫っているという九月半ばの夜であった。
おばさんは僅かにひと月にみたぬ日数ではあったが、実の母かのように慕いよられたこのおとめの手をとって、泣きくずれた。
底本:「鷹野つぎ――人と文学」銀河書房
1983(昭和58)年7月1日発行
底本の親本:「限りなき美」立誠社
1943(昭和18)年11月発行
入力:林 幸雄
校正:土屋 隆
2002年5月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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