十銭しか出て来ぬときは、卵パンをかじることとし、万一不幸にも一銭も出て来ぬときは、武士は喰わねど高楊子《たかようじ》をいたし、晩飯をうまく喰う楽しみを得るものとす。
 本器は賭博マニアに与《あた》うるときは、従来生じたる如き一切の不幸不孝の数々より遁《のが》れ得《う》るものにして、ひいて家庭円満を来たすこと、火を見るより明かなり。
(本器一個の値段は一円七十銭の見込み。但し初充電に金二十円を投入し置くをよしとす。)

 動物発電機
 本器一台を備うるときは、シガレット電熱器を点火し得べく、二台を備うるときはスタンドを点火し得べく、もし十五台を備うるときは電気ストーブを点火し得べし。
 その構造は、籠型《かごがた》にして、円形をなすトラックあり。やや地下鉄のトンネルに似る。使用法は、猫を入れ、その前面に透明セルロイド板の来るよう、セルロイド板より二本の針金を出し、それを後に控えたる猫の顎《あご》に取付けるなり。
 次に、そのセルロイド板の前方に、鼠《ねずみ》を一匹入れるものとす。然《しか》るときは、猫は鼠を追掛ける習慣あるを以て、その地下鉄トンネルの如き籠の中のトラックを疾走し、鼠また胆《きも》を潰《つぶ》して先頭にたちて快走すべし。
 然るに籠の内面《ないめん》にはエボナイト製の天井を設けあるを以て、猫の快走するたびに、猫皮とエボナイト天井と摩擦するをもって、エボナイト天井にはマイナス電気、猫の背中にはプラス電気を生ずべし。
 よって此の電気を器外に導きて、用に立つるものとす。
 使用に当りて注意すべきことは、猫と鼠とを入れる順序を間違えざることにして、もし鼠を入れ置きて猫を後より入れたるときは、本器は故障を生ずる虞《おそれ》あるなり。
(本器の価格七十五銭。猫一匹五銭、鼠十六銭也。)

 新案|水汲器《みずくみき》
 本発明品は、水汲器という名称であるが、市場にあるような不経済なものではない。これは全く費用が懸《かか》らない。例えばモーターを廻せば電力代が要《い》るが、本発明品にありてはすこしも動力代が要らないところに特徴がある。
 乃《すなわ》ち、人間が喋ると口が動き、その附近の筋肉が伸縮する。その運動を、別の器械に通じて発電させそれでモーターを動かし、水を汲み上げるのである。
 本器を取付けるのに最も能率のよい人間は婦人である。早く云えば、お喋りの選手であるほ
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