南太平洋科學風土記
海野十三(佐野昌一)
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)海膽《うに》のやうなもの
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)愈※[#二の字点、1−2−22]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)そろ/\起上り始めた。
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[#地から2字上げ]第一回
はしがき
題して南太平洋科學風土記といふが、實は私が報道班員として南太平洋に勤務してゐた時に見聞したあちらの事情を、科學の目を通じて思ひ出すままにくり擴げようといふのである。餘り戰鬪や作戰とは關係のない至極のんびりしたものになるかも知れないが、これは戰鬪報道記ではないのであるから、そのつもりでお讀み捨て願ひたい。
船醉ひ
私たちがいよいよ南方へ下ることとなつて内地の港を出發したのは寒い一月の初めであつた。そこで私たちは二萬數千トンもある大きな船に便乘した。この船はそのトン數から見ても分るやうに非常に大きな船である。丁度盥を海に浮べたやうな恰好で、船足も餘り早くない。その上甲板では、普段なら野球が二組ぐらゐ充分出來るくらゐの廣さのものであつた。
かういふ大きな船に乘つて南へ下つて行くのであるから、われわれ仲間は所謂大船に乘つた氣持になつて、別に大したピッチングやローリングもなく、航海は船醉拔きの至極安全なものであらうと考へてをつた。ところが實際船が港を出て或る海峽を越え、いよいよ太平洋に出たところ、もうそのとたんに仲間の數名はひどい船醉を感じて部屋の中にとぢ籠つたきりとなつた。私は多分その班員たちが出發前に心身ともに大いに疲勞してゐたので、その疲れのせゐで引籠つて居るのだとばかり思つてゐたが、扉を叩いて彼等の枕邊に立つた時、船醉であることを發見して非常に驚いた。なにしろこのやうな大きな船であるから、波が相當荒くても、また大きなうねりがやつて來ても、船はその波の上に乘つて殆んど搖れないで海峽を通り過ぎたので、別に船醉をする餘地がなかつたやうに思ふ。然るにこの仲間たちは確に船醉を催してゐるので、私は船醉の原因がどこにあつたのかと、その意外さに目を見張るばかりであつた。
そこで私は、倒れてゐる仲間と色々話をして見
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