程當テニナラナイモノハナイトイフ、心理學上ノ事實ハ、吾々ノ忘レテナラナイ誡デアル。
[#ここで字下げ終わり]
 と、止めを刺されてゐる。僕としては、もつと常識を廣くして置いて確實な觀測をすればよかつたのにと、千載の一遇[#「千載の一遇」は底本では「千較の一遇」]を棒にふつてしまつた事を殘念に思ひ、かへつて寺田先生を悦ばせることの少なかつたことを遺憾に思つてゐる。しかし先生の出してゐられる旋風の特性を愛するノートは、實見者たる僕の同感する點が多い。だから、矢張り報告書をさしあげてよかつたと思つてゐる。
 寺田先生と一度お目に懸つてこんな思ひ出話をする好機を得たかつたが、遂にそのことなくして終つたのは、これまた心殘りである。
    ×      ×      ×
 先生のやうに、神か幼兒のやうに素直に物理學を專攻せられるの士は、他に類例があるまいと考へる。多少それに似た事をやる方はあつても、その心組みその悟りに於ては、蓋し雲泥の差があると思ふ。
 寺田先生の豪さには、明治大正昭和を通じて誰も傍に寄れる者がなからうと信ずる。
[#地付き]『科学ペン』昭和十二年十二月号



底本:「海野十
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