で聞いた。
「この液体はなんですか?」
「エエ……」
「この液体はナンであるですかッ?」
「これかネ――これは泥水でさア」
「アノ泥水――土の粒子《つぶ》を飽和した水……だと言うのかネ」
 科学者は眼をパチクリとしたが、その瞬間に彼の推理はプロペラの如く廻転をはじめた。――泥とは水を飽和したる土である。土というのは大地の微粒子である。大地は良い電導体であるし、水も電導体である。酸に似た臭気のあったところから、酸が混入したあったとすれば益々電導体の液体であると言わなければならない。而《しか》も液体の容器は錫鍍《すずめっき》鉄板《てっぱん》で出来ているバケツではないか。おお、この液面は大地電位《アース・ポテンシャル》に在る。この液面は接地《アース》されていたではないか、と科学者は意外な発見に興奮して来るのをヤッと冷静に抑えつけることが出来た。
 鵜烏は不電導体である。これを載せたる液面は良電導体である。若しこれがアベコベだったら鵜烏に小さい鉄片をつけて置いて、液中に電磁石をしのばせれば、電磁石の吸引力で鵜烏を水中に引っ張り込むことが出来るのだが、如何にせんそれとは全く逆であるのだから駄目だ
前へ 次へ
全10ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐野 昌一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング