者が、お庭先へ入っては参りましたが、青侍《あおさぶらい》の制止におとなしく引き退《さが》りましたので、そのまま気にも留めずにいたのでございます。その同勢三四十人の形《なり》の凄《すさ》まじさと申したら、悪鬼羅刹《あっきらせつ》とはこのことでございましょうか、裸身の上に申訳ばかりの胴丸《どうまる》、臑当《すねあて》を着けた者は半数もありますことか、その余の者は思い思いの半裸のすがた、抜身《ぬきみ》の大刀《たち》を肩にした数人の者を先登に、あとは一抱えもあろうかと思われるばかりの檜《ひのき》の丸太を四五人して舁《かつ》いで参る者もあり、空手《からて》で踊りつつ来る者もあり、あっと申す暇もなくわたくしどもは、お文倉《ふみぐら》との間を隔てられてしまったのでございます。刀の鞘《さや》を払って走せ向った血気の青侍二三名は、忽《たちま》ちその大丸太の一薙《ひとな》ぎに遇い、脳漿《のうしょう》散乱して仆《たお》れ伏します。その間にもはや別の丸太を引っ背負って、南面の大扉にえいおうの掛声《かけごえ》も猛に打ち当っておる者もございます。これは到底ちからで歯向っても甲斐《かい》はあるまい、この倉の中味を説
前へ
次へ
全65ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
神西 清 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング