す。かてて加えて諸国より続々と上ってまいる東西両陣の足軽《あしがる》と申せば、昼は合戦、夜は押込みを習いとする輩《やから》ばかり、その荒々しい人相といい下賤《げせん》な言葉つきと云い、目にし耳にするだに身の毛がよだつ思いでございました。そうなりますと最早や戦さなどと申すきれい事ではございません。昼日なかの大路を、大刀《たち》を振りかざし掛声《かけごえ》も猛に、どこやらの邸《やしき》から持ち出したものでございましょう、重たげな長櫃《ながびつ》を四五人連れで舁《か》いて渡る足軽の姿などは、一々目にとめている暇《いとま》もなくなります。築地《ついじ》の崩れの陰などでは、抜身《ぬきみ》を片手に女どもをなぐさんでおります浅ましい有様が、ちょっと使に出ましても二つや三つは目につきます。夜は夜で近辺のお屋敷の戸|蔀《しとみ》を蹴破《けやぶ》る物音の、けたたましい叫びと入りまじって聞えて参ることも、室町あたりでさえ珍らしくはございません。まことにこの世ながらの畜生道《ちくしょうどう》、阿鼻《あび》大城とはこの事でございましょう。
 そのような怖ろしいことが来る日も来る夜も打続いておりますうち、六月八日
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